建築の眼 JAZZの耳 ; tetsuyakimura_weblog

木村哲矢建築計画事務所 木村哲矢 が  見たこと 聴いたこと 感じたこと

旧開智学校

祝!国宝昇格
ということで(・・・もありませんが)、先頃松本の旧開智学校を訪れました。1876年に建てられた棟梁立石清重による疑洋風建築で、松本市民(当時は町民?)の気概を示す名建築です。

シンメトリーの外観(一見です、よく見れば左右の長さが異なります)の中央にそびえる八角形の塔とその下の唐破風屋根のバルコニー、そしてキューピットが掲げる校名の看板が印象的ですが、このバルコニー、飾りだったのですね!
2階の講堂から出られなくもないですが、閉鎖的で腰付きの窓から ヨイショッとまたいで出ないといけない造り、メンテナンス上の出入り程度にしか考えられていないようでした。

20190624kaichi01.jpg
正面外観 塔はセンターからはずれています

20190624kaichi02.jpg
上部に半円形のステンドグラスが嵌っているのがバルコニーに面した開口部
他の窓より若干腰部が低いのですが、でもまたぐにはちょっと・・・

 * * *

そして1階2階の壁面に整然と並ぶ特徴的な窓、なんだか不思議な絵で描いたような窓ですが、これらは両開きの木製板戸、内部側に内開きのガラス窓が入っています。この板戸は雨戸の役割なのか遮光の役割なのか、あるいは意匠上のものなのか・・・裏面の窓には設けられておらず、しかもそちら側の窓は室内側で引き込む窓となっています。雨が入り込んでタイヘンなことはなかったのでしょうか?

20190624kaichi03.jpg
正面南側の窓 室内側からだと様子がよくわかります

20190624kaichi04.jpg
北側の窓 室内側で片引込
上下の枠を連続させて意匠的にすっきりしたものとしています
同時に外観では正面同様ポツ窓の意匠となって彫りも深くこちらもすっきり
ちなみに背面の外観が下です
20190624kaichi05.jpg

 * * *

随所に施された彫刻も見事なら、木製扉の板の杢目は描かれたものと知ってまたびっくり、この頃の洋風建築では大理石の石柱に模して左官で石目模様を描いたりしていましたが、わざわざお得意の木でもそんな裏技を施していたとは!
廻り階段は、子供らは恐らく随分と楽しんで駆け降りたことと様子が眼に浮かびますが、結構大変な仕事。
本格洋風建築を目指しての様々な工夫技巧の数々、子供の教育を第一と考えた建築計画上の配慮など、国宝にふさわしい建築でした。

宿への送迎車の窓から一瞬外観を拝んだ旧山辺学校、こちらも立ち寄って見たかった・・・。

 * * *

翌日は上高地散策。
日本の美しい自然を満喫!

20190625kamikochi01.jpg
大正池

20190625kamikochi02.jpg
明神池
  1. 2019/07/10(水) 06:27:23

国立京都国際会館見学記

先日 京都宝ヶ池に国立京都国際会館の見学に行ってきました。

学生時代に京都に4年も住んでいて、けれども宝ヶ池はずいぶん遠く、その後大阪にもう40年近くもいて、その間には地下鉄も開通して国際会館まではすっかり行きやすくなり、京都工繊大がある松ヶ崎までは何度となく行っているのに、もう一駅足を延ばしたことがなくウン十年・・・
ひどいズボラがお恥ずかしい限りでしたが、宝ヶ池プリンスホテルとセットでようやく到達。


村野藤吾氏最晩年の宝ヶ池プリンスホテルは箱根プリンスを見た後だけに焼き直しの感がぬぐえず、かといって箱根のあの劇的なロビーに値する空間もなく、ホテル自体も宝ヶ池に面するわけでもなく、少々期待が空回り。けれどもフロント背面の大胆な紙障子やロビー床のカーペットの模様は京都を感じさせる美しい意匠でしたし、階段や吹抜周りの手摺りの妙技は相変わらず素晴らしい。
見学に際してロビーに一言お断りを入れればとても丁寧で親切な対応を下さり、こちらもさすがです。


takaragaike hotel001 
外観全景
takaragaike hotel002 
フロント背面の紙障子 自由闊達なデザイン
takaragaike hotel003 
和食レストランの入り口は凝った村野さんらしい意匠
takaragaike hotel004 
階段は手摺・支柱など村野さんの真骨頂 脇に置かれた家具も味があります

  * * *

宝ヶ池の周りを散策して一服、池越しの国際会館は右に比叡山の姿も重なり、とても美しいものでした。

kokusaikaikan001.jpg

さて、国際会館へ。

見学に先立って最近出た本 「特薦いいビル 国立京都国際会館」 で事前に予習、と言いますよりもこの本を見て、「そうだ 行ってみよう!」 となったというのが事の次第です。

kokusaikaikan book 
BMC・著 西岡潔・写真 大福書林・刊


昔々、勤めていました設計事務所の書庫にありました 「国立国際会館 設計競技 応募作品集」 を見て、菊竹清訓さんの応募案に圧倒されて以来、菊竹案の国際会議場こそを見てみたい!と思ってしまったのが今日まで足を運んでいなかった一つの理由です、いえ言い訳にすぎませんが・・・。
もう一つ、私が学生の頃の建築案内書に、国際会館の造形を 「合掌造りを模した」 云々とあり、この国際会館に先立つ国立劇場が校倉造りを模したということもあって、若かった私は京都という地で建築を学んでいたということもあってなおさら意識的に、現代建築が過去の造形様式を模することに対しての違和感 (あるいは嫌悪感) を覚えており、それが足を遠のけていたというのは事実です。

けれども設計者の大谷幸夫氏はあくまで空間の断面形状から合理的に台形を選択してそれを造形にも高め、合掌造りなどとの発想とはまったく別の次元で正統的に新しい建築に取り組んでいらっしゃったというのが真実でした。
いったい誰がそのように解説したのか、つまらぬ風評に影響され、自らの眼で現実の建築を確認することも設計者自身の言説を正しく理解することも怠った挙句、身近にある名建築を見逃すこと40年・・・実におバカなことでした。

今振り返って大谷・菊竹二つの応募案を見比べてみても、双方ともに図面から気概が立ちのぼってきます。思想も造形も機能技術も優れて際立ったもので圧倒されます。そして冷静な目で見てみれば、大谷案はやはり建つべくして建ったと思われます。

そして現実に建つ大谷幸夫設計の国際会館は素晴らしく見応えのある建築でした。

台形をさまざまに組み合わせたその外観は大胆でのびやかに、景観ともよく調和し、その素材のコンクリートも多種多様の工法と仕上げ方で変化に富んでいます。その台形が生み出す主要空間の断面形状は国際会議場にふさわしい品格と荘厳さに満ち、台形と台形の隙間に生み出される変化に富んだ空間は、屋外テラスや通路脇のラウンジなどに活かされ、何といってもエントランスからメインロビーへ至る印象的なアプローチ空間を演出しています。さすがにRoom C-1・C-2の傾斜壁面に建て込まれた襖・紙障子には驚かされましたけれど・・・。
そしてこの国際会館のメインは何といっても様々なスキップフロアで構成された立体的なメインロビー。「重要なことは議場ではなくロビーで話され決められる」 という思想に基づいているそうなのですが、メインロビーには驚くほど豊かな面積が割り当てられています。それ以外にも各会議場前ロビーはもちろん通路や階段脇であったり至るところにミーティングのスペースが設けられていますのが印象的。そしてそれらの空間を支える素材・納まり・手仕事の技!大胆な空間構成と細部の意匠・素材との調和に設計者・施工者の圧倒的なエネルギーを感じさせられずにはいられません。
それにしてもこの内外のコンクリートの膨大な面積を職人がコツコツと斫りに斫ったその仕事!
階段などの立ち上がりと床面との取り合いはなだらかにアールが取られ、その精度の美しさには見惚れます。この建築の斫り仕事は一旦躯体のコンクリートを打ち上げた後、意匠として骨材を選別して混入した表層のコンクリートを二度打ちしてから斫ったものだそうです。その昔勤めていました頃、二度三度ほどコンクリートや石の斫りを試みたことがありました。面積的にはごくわずか(なにしろ高価!な仕事ですので・・・)でしたが、職人の手間はそれは大変で、そしてもちろん効果は絶大。その後はコストはもちろんですが、そのような大変な仕事をこなす斫り職人がいなくなったということもあって、私の意識の中からはすっかり忘れ去られた仕上げでした。
加えて家具とアート!建築の設計と一体的に進められた剣持勇氏デザインの家具や、工事費の2%を目標に (実際には1%となったそうですが) そこかしこに配された芸術作品の数々。単に後から芸術作品を飾りました、というのではなく建築と芸術作品とが対等に組み込まれるという理想の形です。
建築の台形のモチーフに対して、照明は折り紙状の菱形がモチーフとなって実にバリエーション豊かに展開して空間を彩っています。
苔をイメージしたという緑色のカーペットには石庭の砂紋を映したさざ波が立体的に拡がり、場所によっては床から腰壁へともつながっています。
内部の空間だけではなく、台形形状で生み出された屋外テラスや、宝ヶ池ともつながる池とその水面を渡る格子状の歩廊など屋外空間も魅力に満ちています。

バリヤフリーが前提となる現代の公共施設ではご法度となった感のあるスキップフロアが多用された床の構成を含め、ごつごつとした骨太の造形、手の痕跡豊かな職人技に満ち満ちた仕上げの数々、建築と家具・工芸・芸術との幸せな結合など、現代の薄く軽く滑らかで光沢感に溢れ、コンピューターの三次曲面も多用される建築とは隔世の感があります。
まさしく昭和の佳き手仕事の時代の建築ですね・・・
建築の実体のみならず、公開設計競技の過程やその熱気を含め、設計建設そして維持管理のすべてが 「佳き時代」 を感じさせる建築です。それらを懐古的に伝えていくのではなく もちろん 人里離れた佳き時代の遺物 とならず 今後もさらに時代に適応しつつ存在感を高めていって欲しいものです。
 
kokusaikaikan002.jpg 
アプローチからの威容
kokusaikaikan003.jpg 
庭園側の外観 池に面して張り出すのは貴賓室などの控室
kokusaikaikan004.jpg 
V字型の柱は鉄骨で耐震補強されていました
kokusaikaikan005.jpg 
近未来的な趣きのアプローチ空間
kokusaikaikan006.jpg 
立体的なメインロビー 剣持勇のチェアはさまざまな置き方で座る人の関係にバリエーションをつくります
こんなことを書くと今の時代には叱られますが、やはり後に加えられた多くのスロープがスキップフロアの
大胆で広がりある空間を少々窮屈なものとしてしまっていると感じざるを得ませんでした
kokusaikaikan007.jpg 
この柱の重なりには思わずカメラを向けたくなりますよね
kokusaikaikan008.jpg 
壮大なメインホール
kokusaikaikan009.jpg 
会議場A 私はこちらの意匠の方が好きです
kokusaikaikan010.jpg 
台形によって生み出されるラウンジコーナー 落ち着きあるいい空間と家具です
kokusaikaikan011.jpg 
ルームCの斜めの襖・紙障子 開け閉めにはちょっと気を遣いそうです
kokusaikaikan012.jpg 
建物上階からみる庭園と それにつながる宝ヶ池

  * * *

takaragaike shika 
宝ヶ池周りにも 国際会館敷地内にも 何頭も鹿がいました
  1. 2019/06/23(日) 11:33:29

出江寛先生米寿祝OBOG会

先週末に 出江寛先生の米寿をお祝いするOBOG会が催されました。

事務所に集合・受付とあって早めに伺います。久しぶりに訪れた事務所にはびっくり!大通りから一本中に入った事務所は、私が勤めていました当時には木造二階建ての和風民家が隣にも向かいにも建ち並び、お琴や長唄のお稽古も漏れ聞こえてきたような雰囲気でしたのが、ものの見事に辺り一面建物が撤去されて青空駐車場に・・・。遠くからでも一目で事務所の建物が目につく見通しのよさに時の流れを感じずにはいられません。

出江先生も随分と早くにお見えになり、一通りの挨拶もそこそこに先生が語り始め、話すほどに熱を帯び、先生独自の建築哲学から、京都の町への思い、そして人としての生き方に至るまで、ご高齢を露とも感じさせぬ独演会。かつて何度もお聞きしたこともまた、今の自分の日常ではすっかり顧みていないことであるなぁと、襟を正して伺います。「沈黙」の象徴としての「壁」の大切さ や 住み手の生き様を体現すべき床柱 の話しなどなど、心に刻んでおきたい事ばかりです。

さて、場所を移してお食事の席になってからはお酒も入り、和やかな会に。
釣りがお好きで自称漁師の先生も流石に磯に通うことを控えていらっしゃる昨今は、ベランダに集まる雀を相手にあの手この手、相手がお魚さんから雀に変わっても生き物相手の知恵比べには余念がないご様子です。
そして宴もたけなわ、幹事の方がたいそう工夫して手配した記念のお品を先生にお渡しすれば、先生からも執筆中の原稿の写しを出席者一人一人に配布して頂きました。先生に署名も頂いたその写しは大切に読み返していきたいと思います。

どうぞ先生にはまだまだお元気にして頂いて、次は卒寿のお祝いをさせて頂きたいと願っています。

20190525izue.jpg
《記念品の松の盆栽 その鉢はコンクリート打ち放し表現で なんと 北摂の家や逆瀬台の家を彷彿させる腰リブ付き!》
  1. 2019/05/27(月) 18:35:17

韮山~熱海~八王子~厚木 建築巡り

前回の3月の 「3つの大学図書館」 の折にはもちろんそればかりではございませんで・・・
その続編を今頃になってつらつらと記します。

朝早くに大阪を出て新幹線を三島で降り韮山へ。目指すは江川邸。江戸初期1600年前後に修築されたといいますから400年以上の民家です。
あいにくの雨模様でしかも結構な降り、駅から歩きましたのが途中はあたかも山道・・・難儀しました。
入場券売り場の方に、「その道はイノシシも出たりして危ないので歩かないでください」 と遅かりしながら注意されたのですけれど、Googleのルート案内を信じて歩いてきたのですよ・・・確かに途中不安を覚えましたが引き返すにも引き返せず・・・。
それにしてもこの江川邸の土間の小屋組み、ともかく細かい!縦横にびっしり!
よほど曲がったことがお嫌いな棟梁であったのか、木材がどれも曲がり材を用いずにビシッと線の通ったものばかり!
凹凸の三和土の土間の上に広がる薄暗がりの中に整然と幾何学的にひろがる小宇宙、言われるような荒々しさなどは私は微塵も感じませんでした。座敷のほうには目もくれず、ただ小屋組みばかりに見とれてまいりました。
向かいに建っていました西蔵の下屋庇はなんと!石の瓦葺。

201903egawatei (1)
もともとは茅葺屋根ですが、銅板で葺き替えられています

201903egawatei (2)
ともかく梁もまっすぐ

201903egawatei (3)
小屋組みの見上げ

201903egawatei (4)
西蔵正面 駒の形をしているので駒蔵ともいうそうです

201903egawatei (5)
伊豆石葺きの庇


せっかくなので立ち寄った反射炉、鋼製のブレースのフレームばかりがやたらと目立ちますが、もちろんこれは後補の補強。このブレースが何と言っても印象深く、もちろんこの反射炉が鉄の鋳造施設であるからでしょうけれど、エントランスや柵、手摺など、そして新たに建てられた展示館も全て鉄の意匠で、一般の観光の方は気にもされないのでしょうけれど、柵とか手摺とかとても良いデザインでした。

201903nirayama.jpg


三島の後熱海でくつろぎ、翌日伺いましたMOA美術館、先月に大観荘を訪れた際にも観に行き立て続けの訪問となりました。

この美術館、2017年に杉本博司+榊田倫之 「新素材研究所」 によってリニューアルされたばかりのもの、素晴らしい空間でした。
メインエントランスの漆塗りの巨大な扉、そして展示室への繊細な木製扉。展示ケースの座面床面は畳のもの美しい無垢板のもの四半敷きの瓦のもの、框の納まりや高透過度のガラスと相まって、私などはついついと展示の美術品よりも展示ケースのほうに眼を奪われる始末です。そして何より、その展示ケースの対面の長大な壁や、仁清の 「色絵藤花文茶壺」 を囲う特別な展示空間の、しっとりと黒い漆喰!
壁の小口やアールをとったコーナー、巾木の納まりなど、這いつくばるように屈みこんで眺めいる私はどう見ても不審者、でもこうした建築オタク(?)もいっぱい訪れて美術館側は慣れっこでしょうね。
もちろん3月の訪問は 光琳の 「紅白梅図屏風」 がお目当て、そちらもしっかりとまぶたに刻んでまいりました。

201903MOA (1)
正面扉の内観 玄と紅の漆

201903MOA (2)
現代的な洗練さを感じさせる展示エリアへの入り口 正面に伊豆の海が広がります

201903MOA (3)
展示室へのアプローチ 床は凸状の敷き瓦 正面の扉の細いスリットにはアクリル板が埋め込まれています

201903MOA (5)
展示室の様子 右側が黒漆喰の壁 この壁により落ち着きがもたらされると共に対面の展示が映り込みません

201903MOA (6)
仁清の壺のためだけの特別な展示室の囲い

201903MOA (7)
お目当て 「紅白梅図屏風」

201903MOA (8)
当時の黄金の茶室は建物の奥まったところで暗がりの中にあったとのこと、露出を抑えて撮ると当時の雰囲気がつかめますとの案内の方の助言です
暗がりの中の黄金は華美なものではなくとても艶めかしいものです 成金趣味ではなかった!


201903MOA (9)
ミュージアムショップのカウンターがとても美しい素材と納まり 商品陳列台も素晴らしいものでした


多摩美とムサ美を訪れるためにこの後泊まりましたのが、八王子の大学セミナーハウス。関西の大学に通った私にはなじみのない施設でしたが、今回やっと念願かなって訪れることとなりました。
バス通りから少し入るとすぐに前方にあの逆四角錘が姿を現してびっくり。もっと山の中森の中にあるのかと思っていました。暗くなりかけた頃に到着して翌日朝にはもう出立、慌ただしいことこの上なしでしたが、暗い中あるいは早朝日の出を待って広い敷地内を歩き回り、他所の学生さん方が使用中のセミナールームを覗きこみ(無遠慮に入り込んで失礼しました!)、タオルぶら下げ共同の浴室にも出掛け、深夜にはポツンとラウンジにたたずみ・・・もうすっかり満喫、宿泊者の特権!をフル活用でした。
ともかく既製品とか工業製品とかとは対極の造り方、ひたすら手と汗の痕跡を感じさせる建築群、それ以前に地形を読み込むのって一体どうしたんだろう?と思わされます。やはり初期の建築群が見応えあります。それにしても、もうかなり暗い中松下館をうろついて、その屋根を歩きかけて“ちょっと足元怪しい・・・”と躊躇、翌朝再度訪れて見てびっくり、いやはやとても歩けるような代物ではない。しかも濡れて滑るし・・・。その昔、荒川修作さんの養老天命反転地の危険さが話題となりましたが、その先駆者がここにあり、です。ユニットハウス群はすでに廃墟の様相、その一つの扉の前で 守り神のように頑とたたずむ堂々のねこさん、どうかいつまでもセミナーハウスを守ってね!とお願いしてまいりました。

201903seminarhouse (1)
本館の夕景 ここの個室に泊まりました

201903seminarhouse (2)
本館3階のラウンジ

201903seminarhouse (3)
本館4階には粘土模型が置いてありました 全貌がよく分かります

201903seminarhouse (4)
松下館 手摺がリズミカルでいいです 1階と2階が非常に近い

201903seminarhouse (5)
松下館の屋上 ここを歩けって???とてもムリーーー

201903seminarhouse (6)
共同浴室壁面のモザイクタイル

201903seminarhouse (7)
こちらは泊まった部屋のシャワールームの壁面タイル 共用トイレなどにも凝ったタイルの貼り方が施されていました

201903seminarhouse (8)
ユニットハウスの扉正面にでんと居座るねこさん 貫禄十分
横には人相書?に注意書き 曰く 「爪が出ることがあるので むやみに手を出さないように!」



二つの大学図書館を見終えた後、厚木へ。
神奈川工科大学KAIT工房とアミューあつぎの屋内広場 sola、ふたつの石上純也作品の見学。
さすがに初めて雑誌等で見た頃のKAIT工房の衝撃は薄れましたが、やはり現実の空間体験となるととても面白い。様々な向きとサイズの鋼材が散りばめられて織りなす場所場所の独特の感覚は興味深いものでした。その一方で、いわゆる柱らしい柱がないことについては、実空間ではほとんど意識にのぼりませんでした。空間のスケールのなせる業でしょうか。
KAIT工房のすぐ横では多目的広場の工事中、とはいえもっと進んでいるのかと思いきやまだ掘削の段階でした。どんな空間が出現するのか、こちらも楽しみです。

201903KAIT (1)
外観と樹々の映り込み

201903KAIT (2)
密な柱のエリア

  * * *

この後東京池袋に出てシメは観劇
前野健太さんももちろんながら松たか子さんの歌声に聴き惚れ、その余韻に浸って夜行バスで帰阪した、充実の旅でした。

201903sekaiwahitori.jpg
岩井秀人作・演出「世界は一人」 松尾スズキ 松たか子 瑛太 / 東京芸術劇場 プレイハウス
  1. 2019/04/18(木) 15:54:18

3つの大学図書館

先頃図書館建築を三館見学してまいりました。
いずれも大学図書館であり、一般の公共図書館とは性格もやや異なりますし、しかもそのうち一つは正規の図書館は別にあり大学内での位置づけとしては図書館とは異なるものでしたが・・・。
その三つとは、近畿大学アカデミックシアター(設計:NTTファシリティーズ/畠山文聡 2017)、多摩美術大学八王子図書館(設計:伊東豊雄 2007)、武蔵野美術大学図書館(設計:藤本壮介 2010)です。

大学図書館は、いわゆる知の牙城のなかの最たる部分、まさにアカデミズムの体現でありましょうし、知性・合理性が形態を成すうえで古典的な表現や明晰な幾何学が過去には参照されてきたものと思います。
けれども現代の新たな知の館はいずれも従来の幾何学=直交座標系を崩すところから始まっています。直交座標を用いず、けれども混沌ではなく、それに代わる独自の規範を見出すことに腐心されていました。
そもそも直交座標は、設計する上・建設する上で非常に有用なものです。大工の描く番付でも「い、ろ、は・・・」と「一、二、三・・・」の符号によって空間や部材の位置は明確に表され、現代建築でも「X1,X2,X3・・・」「Y1,Y2,Y3・・・」「Z1,Z2,Z3・・・」と構造部材の位置が特定されます。
つくる側だけでなく使う側からも、例えば坊条制で形成される京都の街の住所の表し方、「**通**上る」と面する通り名と直交する通りからの東西南北の位置を示すのみでとても分かりやすくできていますのも碁盤の目状の街路を有しているからこそです。大学生となった時、京都に暮らす第一歩としてまず通りの名を覚えるようにと、通りの名の数え歌を先輩より教わりました。目的の書物に迷わず最短でたどり着くことが望まれる図書館でも同様に空間の把握のしやすさが必須であり、直交座標はうってつけのシステムであったことと思います。
それでもこの三館は、直交座標を意図して崩しています。
そして空間の体験としては、本の森の中を彷徨い歩く、あえて迷いあえて迂回することがもくろまれているようです。

デジタルの時代に最も顕著なものは検索機能でしょうか?キーワードを打ち込めばたちどころに迷いなく結果が表示されます。
けれどもよく言われることですが、辞書を引けば目的の語の周囲の言葉やそこにたどり着く過程でふと開いたページの文言などについ興味を惹かれ本来の語句を忘れて読みふける、という体験がしばしばでした。書店や図書館でも目的の本を探すうちについ何気なく別の棚の本の背表紙に惹きつけられて手を伸ばし、思いがけない出会いが生じることが悦びでした。
デジタルの世界で瞬時に物事を調べることができる現代にあって、現実の空間である図書館には一直線・まっしぐらであることと同時に、そうでないことこそも求められているのでしょうね。そしてその空間の表れが直交座標系からの逸脱なのでしょうか?

実際、近畿大学アカデミックシアターでは自分の位置の把握は一筋縄ではいきません。空間の全貌は見通しが効かないようにつくられ、そして多様で自在な場所場所が設けられています。設計者の方の解説によれば直行グリッドの僅かな変形のみでさほど複雑な操作をしたわけではないとのことでしたが、そして平面図を読み込めばなるほどそのようでもありますが、しかし現実の空間は非常に変化に富んでいます。

201903kindai001.jpg

201903kindai002.jpg

一方、多摩美術大学八王子図書館は設計者が 「エマージング・グリッド(生成するグリッド)」 と呼ぶ、変形されたグリッドで構成されています。その内部空間は連続する多様なアーチの開口と低く抑えられた書架により、内部の全体が見渡せています。アーチというよりは、細い幹が上方で四方に広がる樹が点在し連なっているという印象を持ちました。まさしく木立の中という印象です。暗い森の中ではなく、明るい木立の中の心地よさ というのは豊かな天井の高さが醸し出していることでしょうか。

201903tamabi001.jpg

武蔵野美術大学図書館は、平面図からは渦巻き状の空間構成が明瞭ですが、現実の体験ではその渦巻き状の壁面に穿たれた開口がつくる放射状の印象が強く、それによって見通しもよく効いて思いのほかシンプルな空間でした。この図書館は本棚で出来ているというイメージをストレートに表現していますが、もちろんと言いますか、外壁部も内部の高いところも書架は空っぽのままです。外壁部では日射や雨仕舞のこともあり、現実問題本の出し入れなど困難で、あくまで図書館のアイコンなのだろうと思いますし、内部書架でも現実的な高さまでは可動棚板としてありましたが上部は固定棚板で、こちらも上部については実際の書架としての使用を設計者はイメージしていないのでしょうね。これらの書架が本で埋め尽くされていればそれはそれで壮観な眺めでしょうけれどもかえって重苦しいかもしれず、これらの空白が空間的にも心地がよいし、伸びしろといいますか、知の発展を暗示している余白の書架なのでしょうか。

201903musabi001.jpg

ところで
現代の図書館の建築計画を成り立たせている根本に入退館のゲートシステムがあります。
四方八方からのアクセスを可能としている近畿大学アカデミックシアターは、なんとこのシステムを採用せず、したがって出入りも自由であれば、書物を手に取ることも自由。そして本の盗難紛失が今のところ起きていない!ということでした。
なお、この館では建築計画や入退館管理だけではなく、書物の配列でも柔軟な計画、日本十進分類法が用いられず (最近のTSUTAYAなどでも見られますよね) ジャンルを横断して関連書を配置する近大独自の分類法が用いられています。
多摩美図書館ではオープンなエリアと制限エリアとが明確に区画され、その間にはもちろん関所の如くゲートシステムがありました。
武蔵美図書館は狭い入り口をくぐったすぐ目の前にあまりにも近くにゲートがあり、内部のゆったり大らかな空間に対していささか窮屈、出鼻で少々くじかれました・・・。

もう一つ
近畿大学アカデミックシアターは裏も表もない建築で、様々な素材と意匠で各面がつくられていました。そもそも四隅にある異なる建物を繋ぐエリアがアカデミックシアターという成り立ちです。
多摩美術大学八王子図書館では各面の外観は同じ表現でつくられ、但し裏側はサッシュを現実的な納まりとしてコストダウン?
それに対して武蔵野美術大学図書館、裏手などは表側とは打って変わった簡素な設えで (とても同一建物とは思えません!)、設計者の割り切りには脱帽・・・。潔さに感じいりました!

三館ともとても刺激に満ちた建築でした。
近畿大学アカデミックシアターでは建築の見学や館内の撮影にもおおらかで建築同様柔軟です!加えて伺った見学会では設計者の方の丁寧な解説と館内案内があり、見学の後にも直接いろいろとお話しを伺う事が出来ました。見学許可をくださった他の二館にももちろん、皆さまにお礼申し上げます。
  1. 2019/03/20(水) 15:19:31
次のページ