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木村哲矢建築計画事務所 木村哲矢 が  見たこと 聴いたこと 感じたこと

上方文化講座2014 「本朝廿四孝 十種香・奥庭狐火の段」

今夏も8/27-29の三日間、大阪市立大学の上方文化講座2014を受講してきました。
加えて8/30の今朝にはラジオ体操も終了し、夏の終わりを感じます。

今年の演目は 「本朝廿四孝 十種香・奥庭狐火の段」
三浦しおんさんが著書 「あやつられ文楽鑑賞」 の中で 「酔っぱらった合作者たちが大風呂敷を広げた話」 と認定(!)した物語り、どんなお話しが伺えるのかとわくわくしました。講座に先立って原著を通しで読んで、と思っていましたが、生憎全段の入った書籍が見当たらず近くの図書館にもなく、あらすじだけを頭に入れて臨みましたが、それだけではよく分からない物語、講座でも物語の複雑さ・わかりづらさがしばしば語られましたが、要は立作者近松半二が細かなことにはこだわらない書き手であり、ストーリーの整合性よりも作中人物の変貌等を楽しむことに主題を置いていたから、とのこと。まあ、私自身は全段を読んだり観たりした訳ではありませんので、その辺りはよく分かりませんが・・・。

今年の実演も昨年の記念講座に負けず劣らず、舞台を広く取り、道具方の方々が装置を誂えた見応えのあるものでした。2日目の素浄瑠璃による 「十種香の段」 でも後半蓑作・八重垣姫の人形が加わってのものとなりましたし、3日目の 「奥庭狐火の段」 では庭に設えた舞台を所狭しと八重垣姫も狐も飛び回る大熱演、見応えある舞台でした。
技芸員の方々のお話しの内では、文楽劇場夏公演の新作 「かみなり太鼓」 の制作にまつわる話題が多く出ました。新作を創る楽しさ、というものが伝わってきます。あいにくお子様向け親子劇場とあって残念ながら私は観ておりませんが、大人にも見てほしかったとの由。

印象に残りました話しとしては、
「十種香の段」での上手の間、八重垣姫が勝頼の絵図に回向するシーンでその姿が紙障子にシルエットとして映るのですが、通常の腰付き紙障子では八重垣姫の上半身も上のほうしか映らないため、勘十郎さんの師匠の簑助さんは、八重垣姫が座して回向する姿が映るように、けれども腰無しの紙障子では座敷の格も落ちてしまいますので、奇異に感じない程度のギリギリの成に絞った低い腰付きとしている、というお話し。映像資料があれば、どの程度のプロポーションとしているのか、是非確認してみたいと思います。
また、この場面で隣の部屋から漏れ聞こえる話し声に姿を覗き見て、まさかと思いつつも絵図を確認し、抑えきれずに簑作に走り寄る、八重垣姫のその僅かほんの数歩の難しさ、という話しも印象深いものでした。
簑作の長裾での歩き方などとともに、あるいは過去の講座でも熊谷の登場の一歩やら阿古屋の八の字やら、足遣いの話しには興味深いものが多いです。裃を着て肩衣を着けた簑作の肩の動きなども、衣装を外した胴だけでの解説はとてもわかりやすいものでした。
その他、「人が叱られているときは、忙しくても立ち止まって一緒に聞け (褒められているところは聞かんでええ) 」 というのはどの世界にも通じる教えです。

また、今年の国立文楽劇場開場30周年に触れて、皆さんがそれぞれに朝日座の思い出を語っていらっしゃいましたが、
勘十郎さん: 朝日座は青春そのもの、閉場の際に楽屋から便所からくまなくビデオで撮影した、芝居小屋独特の“におい”があった
津駒太夫さん: 客席が広くて2階の奥まで声を届かせることの難しさ、ともかく客が少なかった
清介さん: 道頓堀のはずれで十日えびすの宝恵かごが朝日座まで来なかった淋しさ
そして皆さんが、客の数がそれこそ技芸員より少なくとも、客の多寡に係わらずあくまでも芸のために持てる技量を最大限に注いでいらっしゃった様子には、芸に生きるプロとしての矜持を感じました。
その昔私も朝日座に二度ほど文楽を観にいった記憶はあるのですが、残念ながら情けないことにほとんど何も覚えていません。確か、通りから申し訳程度のホワイエを経てもういきなり客席内、という造りに、安っぽい映画館みたい、と感じたような・・・(吉田五十八大先生の設計に対してまあ失礼な!)

講義のほうでは
今年初めての 「文楽のオーディオ / ビジュアル」 という授業はとても刺激的なものでした。
文楽は聞くものか?見るものか?という問いから始まって、
・文楽における身体(人形)と台詞(太夫・三味線)の分離、
・さらにそれが空間化された劇場での舞台と床との分離、
・役者と役との二重構造での歌舞伎と文楽の比較、
・身体と声との分離における文楽と映画との類似と相違
などなど興味の尽きないお話し。
そしてまた、杉本文楽と三谷文楽に触れて
杉本文楽:文楽の芸術化
三谷文楽:文楽の娯楽化
として、方向性は対極を志向しながらもそのいずれもが文楽の現代化を試み、図らずも舞台に於いては同じ改革、すなわち
1.出遣いの廃止(ならびに舞台上の照明の工夫=暗さ)
2.客席照明の消灯
3.舞台と床との分離の解消
4.音響(マイク・スピーカー)の採用
を行ったという指摘、そしてこの音響の使用こそは、何でもないことのように見えつつも、“身体-声の分離と観客内面での融合” という文楽の最大の魅力を損なうのではないか、という先生のご意見は興味深いものでした。

毎年ながら、講座の充実した内容は素晴らしく、ご準備の大学の先生・学生の皆様のご尽力には頭が下がります。

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 * * *

この講座に加えて今年の夏は
国立文楽劇場7月公演 「平家女護島」「鑓の権三重帷子」「女殺油地獄」
三谷文楽 「其礼成心中」
近松門左衛門没後290年のメモリアルイヤーに相応しく近松尽くしで楽しみました。

「平家女護島」 の、千鳥という女性をからめた物語りは内容がより豊かになってわかるのですが、
「鑓の権三重帷子」 となると、現代の感覚からすれば、どうして市之進の名誉のために妻敵として討たれなければならないのか、あるいは、討たれる道を選んだのならどうして逃げ隠れるの?などというギモンが湧いてきます。その場その場のいろいろな経緯は分からなくもなくて、見ていても面白いのですが・・・。
「女殺油地獄」 まあ見事に滑るすべる!放蕩ドラ息子と義父実母、イロイロですね・・・。
ところでこの話し、お金の単位(価値)を理解していないとさっぱり分かりません。貫目とか匁・文、そして銀やら新銀やら・・・、公演パンフレットに附属していた別刷の解説を、公演後に読んでやっと分かりかけました、いや現代の貨幣価値でどれくらい、という感覚がないので、実のところは実感を持っては分かっていないのですが・・・。
「其礼成心中」 それにしてもお客さんがゲラゲラと大声でよく笑うこと、いや私もですが・・・。文楽ってそもそも泣く世界なのに・・・。
京都公演なので(?)英語の字幕付き!つまりは国立文楽劇場のように現代日本語の字幕がなくても、太夫さんの語りがしっかりと分かって、だから笑うにも障りない。ついつい英語字幕にも眼が行って、「へぇ、こう言うんだ」 などと雑学もしつつの鑑賞。
国立文楽劇場では字幕は舞台の上方、そして太夫三味線の床は上手ですが、京都劇場での三谷文楽では、英語字幕は舞台の下方、そして太夫三味線の床が舞台上後方の上部、つまりは人形の芝居を見ていると必然的にその背景に太夫三味線が眼に入ってきます。しかも照明も当たっているし・・・
これが三谷文楽の最大の特徴でしょうか?ここに太夫三味線が位置するためには舞台装置に制約が大です。また、観客の芝居への集中といいますか、視覚的な影響も大ですが、しかし実際のところまったく気にはなりませんでした。
まあ、普段の文楽で人形のすぐ横に主遣いの方の生の顔を見ながら、そこはお芝居のお約束でもあり、しかも芝居に身が入れば全く気になっていませんからね。(←ハシモトさん、そうなのですよ!)
それにしても太夫三味線の方々の姿を堂々と、と言いますか、敢えて見せながら、その一方で人形遣いには全て頭巾をかぶせて視覚的には消し去って・・・、いわゆる通常の文楽で舞台の、人形遣いの方は眼に入りその一方で太夫三味線は視野の外、という構造とはまったくの逆。その辺りの意図はさて?
パンフレットで三谷さんが書いていらっしゃったのですが、戯曲を書く上で戸惑われたのが、いわゆるト書きの部分だそうです。文楽では当たり前のように聞いていますが、全ての登場人物を基本的には一人の太夫さんが語り、しかもト書きに相当する状況説明なども語る、なんて一般の現代劇ではありえませんものね。現代劇でト書きのようなナレーションが入ったら説明っぽくて芝居にならないことが、文楽では普通、考えてみれば不思議なお芝居です。

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国立文楽劇場7月公演チラシ国立文楽劇場7月公演チラシ国立文楽劇場7月公演パンフ
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三谷文楽「其礼成心中」チラシ「其礼成心中」公演パンフ


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ああ、夏も終わりました・・・
  1. 2014/08/30(土) 18:24:45
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