建築の眼 JAZZの耳 ; tetsuyakimura_weblog

木村哲矢建築計画事務所 木村哲矢 が  見たこと 聴いたこと 感じたこと

2018年夏の建築巡り

あんなに暑かった夏もいつしか過ぎ去り、すっかり秋です
異常な暑さに加え風水害に台風・地震と大変な夏でしたが、幸いにも私自身は災いに遭う事もなく、合間を縫って建築巡り
遅くなってしまいましたが、夏の建築日記・・・

夏の始めに訪れました伊豆の江之浦測候所(2017 設計:杉本博司+新素材研究所/榊田倫之建築設計事務所)
太平洋に面した絶景の地、海しか見えない敷地に配された建築の数々、それらは夏至や冬至、春分秋分の日の出の方位に向けられ、掘り込まれたり突き出したり、様々な関係性を持って構成されています。出来上がった建築群を見てあれこれ言うのはたやすいけれど、何もない海べりの樹木が生い茂る自然の地形でこのような配置を構想するのは大変な想像力と、現地で身を粉にしての労苦の賜物ですね。その結果として、風景を切り取り、光と影を読み解く、まさしく写真家ならではの建築群が出来上がっています。そして、それら建築群の大胆な配置に対して緻密で繊細な素材とディテール!圧倒的な石の群れ。そんな中、茶室の屋根の錆びた小波鉄板に、躙り口の沓脱のガラスの量塊には驚いてしまいました。展覧会場では喰い入るように見つめる杉本さんの「海景」シリーズ、100mギャラリー内にゆったりと間隔を持って展示されていましたが、ここではそれらも単なる一つの背景のように、周りのすべて 空・海・樹木と建築群、点在する灯籠石碑などに目を奪われっぱなしでした。

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夏の終わりに訪れました琵琶湖畔の佐川美術館 樂吉左衞門館(2007 設計:樂吉左衞門+竹中工務店)
なんとも大げさな主屋2棟の大屋根に対して樂吉左衞門館の屋根のシルエットの美しいこと!水面に生い茂る蘆の群れの上に 柔らかくむくりのついた屋根のみが覗いています。とても深い軒で先端は薄く研ぎ澄まされて鋭角的ですけれども優しい。増築という制約の中、建物の配置も巡りゆく動線の構成も計算されつくした感があります。樂吉左衞門館へのアプローチは水面の下へもぐり行き、ホールと展示室、茶室も待合と小間は地下にあって、広間のみが水面より上にあります。水面下の空間のその暗さがなんとも印象的。水面のゆらめきを通した天窓からの光が時間とともに壁面に様々な表情を映し出し、あるいは茶室小間の和紙太鼓張りの壁には池の蘆がうっすらと緑色を映しこみます。杉板型枠のコンクリート打ち放しは、板幅がエリアによって微妙に変えられて空間の緊張感をコントロールしています。その小幅板の板厚も微妙に変えられて壁面にかすかな凹凸をつくって陰影を醸し出し、何よりもそのコンクリートの色!黒いコンクリートなのです!いったいどんな手品があるのやら、左官といいコンクリートといい、黒い色を混ぜるのって至難の業だと思うのですが、それが何とも美しい黒色に仕上がっていて、小幅の打ち放しのところなどはあたかもコンクリートの厚板の積層の如き風情でした。抑制された展示や動線の空間に対して茶室の二間はかなり大胆な材料の選択で、ともすればゲテモノ趣味になりかねないものをよくぞまあ・・・。
朝の開館と同時に入ってから夕方の閉館まで丸々一日ともかく堪能、もちろん建築だけではなく展示もまた盛りだくさんで、何しろ平山郁夫・佐藤忠良に加えて田中一村、もちろん樂さんのお茶碗も・・・
全部見るだけでも大変、疲れると樂吉左衞門館の地下のホールに潜って闇の中で天窓からのゆらぎに身も心も休めます。

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これら二つの建築はいずれも建築家ではなく美術家の企画/構想/設計によっています。芸術家のつくった建築って、ともすればその発想に建築がついて行ききれず、頭でっかちであったり奇想天外ばかりが目に付いたり、建築的には???と感じるようなことも多そうに思いますが、これらはいずれも素晴らしい協働者施工者を得て、密度の高い優れて大人の建築であり、同時に新しい建築であるなあ、とひれ伏す次第です。
そして何より本物の力!時間をたっぷりと蓄積した、人の想いをしっかりと染み込ませた、嘘偽りのないモノだけが持つ圧倒的な力!
いいものを見てとてもシアワセな両日でした。

CASA BRUTUS 212茶室をつくった
参考書
「CASA BRUTUS No. 212
杉本博司が案内する、おさらい日本の名建築」

江の浦測候所も紹介されています
参考書
「茶室をつくった。―佐川美術館 樂吉左衛門館 5年間の日々を綴った建築日記」
樂 吉左衛門

今読み進めています


今を逃すともう行く機会がない、となぜか突然思い立ちましたのがお盆の前々日という有り様で、急に旅立ちました糸魚川。
積年の想いを晴らすべく訪れた谷村美術館(1983 設計:村野藤吾)
ああ、やっと来ました・・・
木造の回廊に囲まれたこの別世界、あぁぁこれこれっ という感じでのご対面。9時の開門と同時に入りまして、まだ朝のひっそりと静かなたたずまい、こじんまりとしたコンクリートの不思議な造形に見入ります。ラフに仕上げられた外壁の汚れまでもが美しい。
法隆寺の回廊を意識したともいわれる回廊を時間をかけて巡り、いざ内部の迷宮へ。
内部には順路を示す矢印案内がありましたが、そんなものは不要。光にみちびかれるままに彷徨っていたい、柔らかな胎内。不思議な平面形ではありますが、内部を歩めばとても自然な感覚です。各展示空間には直接の光線というものが一切なく、幾何学的な直線とか直角とかも一切ありません。外部内部ともに有機的な形状と素材。その中でただ一つ、エントランスから展示室に至るごく短かな斜めのスロープ、ここにのみ直線があり壁との取り合いに鋭角がありました。なぜなのでしょう・・・。ホールに設けられた窓の木製格子も方位によってか屋外取り付けと屋内取り付けの使い分けがあり、これも謎でした。
洞穴というのは本来暗いものなのでしょうが、こちらはただひたすらやわらかなやさしげな光に満ちた仏さまと私だけの洞穴。酷暑の夏であちらこちらに何台も置かれた扇風機がうるさくて、多少暑くとも静寂が欲しいと願わずにはいられませんでした。
至福の空間を後にしますと再び回廊へ。青い空と前庭に敷き詰められた砂利が眼に心地よく感じられます。

併設の玉翠園に伺いますと、こちらには数多くの全体模型に部分模型、スケッチ、工事写真など美術館建設の折の数々の資料が展示されていました。村野先生自ら作られたという粘土模型や、図面への幾多の書き込み、なかでもびっくりしてしまいましたのが工事写真で、型枠を外したコンクリートの躯体に布を張って、現地で原寸の空間を再現しての確認!つまりは現地でつくる原寸模型です。
あの天下の名人の村野さんが、実績からすれば片手間仕事のごときとてもとても小さなこの建物に込める想いといいますかなんと言うか・・・、あのお年で(竣工時92歳!)自らスケッチを繰り返し、粘土をこね、かような便の悪い遠方まで足しげく通い、けれどもそれだけでは飽き足らず原寸での空間確認まで行い、さらには完成後も熊手で建物足元などを自ら整えていらっしゃる。
そんなことに触れるともうわたしなどは怖くて設計などに手を出せません。

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糸魚川へは富山を足掛かりとしましたが、その富山で訪れましたのが
TOYAMAキラリ 富山市ガラス美術館(2015 設計:RIA+隈研吾+三四五)
近づくにつれて眼に届く外観は ああ隈さん・・・と多少食傷気味、でも内部空間はとても楽しかった。ずれながら上昇する吹抜、そこに設けられた幾千枚もの微妙にテーパーをつけて厚みをコントロールした杉のルーバー、いつもの隈さんの手口ながら見惚れてしまい、あらわしの耐火被覆までもが新鮮に美しく見えてしまいます。
そしてなにより、美術館と図書館その他の機能が一体的に融け合い、ガラス張りの美術館展示室など中身がガラス越しによく見える、といいますかショーウインドーの如く共通ゾーンに面して展示してあったりもします。こういったところが従来にないあり方ですよね。
もちろんとても多くの人で賑わっていました。いい施設です。
その中でも眼を引きましたのがサインのデザイン。スチール丸鋼で作られたサインが天井から吊られていたり柱に取り付けられていたり・・・なのですが、鏡張りの柱へのその取り付けがなんとも小粋、絶妙にはみ出しているのです!それを反対側から見ると!!!
メインエントランスの館内案内も天然木をつかったとても洒落たものでした。 

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あわせて訪れましたオープンしたての
富山県美術館(2017 設計:内藤廣)
設計・デザインなどの錚々たる顔ぶれに胸躍らせて伺いましたが・・・
うーーン???どうなんでしょう・・・
私にとっては残念ながらあまり多く感ずるところではありませんでした

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 * * *

富山と糸魚川のちょうど中ほどにありますのが入善。
宮本輝さんの小説「田園発 港行き自転車」の舞台です。とても心洗われた小説で扇状地の田園風景などを思い描いて読み進め、一度訪れたいなぁと願っておりました。今回わずかの時間ながらもその風景の中を歩くことができて満足。
でも観光案内所がお休みだなんて・・・
レンタサイクル目当てで、小説の中のように自転車で辺りを駆けたいと思っておりましたのに、残念!

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水力発電所をリノベーションした下山芸術の森
(1926/1995 マルチネス・ラペーニャ&エリアス・トーレス+三四五建築研究所)
から眺める入善町の風景


番外編

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箱根彫刻の森内にある
ネットの森(2009 設計:手塚貴晴+手塚由比)
集成材を大胆に組んだ興味引かれる建築でした
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その内部
作品は 《おくりもの:未知のポケット2》堀内紀子
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同じく箱根彫刻の森内にある
シャボン玉のお城(2011 設計:ピーター・ピアース)
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ポリカーボネート板とステンレスフレームの単一部材による構成ながら
変化に富んで、内部と外部がいつしか入り混じるとても魅力的な構造でした
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小田原 内野邸(1903 棟梁:鈴木卯之助)
通りがかりに外観のみですが・・・目を惹かれました
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谷村美術館翡翠園近くの民家の石塀
何気なくて実にうまいなぁ・・・こんな芸当が出来たら!
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桜橋(1935)と富山電気ビルデイング(1936 設計:富永譲吉)
ともに登録有形文化財
  1. 2018/09/22(土) 12:24:28
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