建築の眼 JAZZの耳 ; tetsuyakimura_weblog

木村哲矢建築計画事務所 木村哲矢 が  見たこと 聴いたこと 感じたこと

風の丘葬斎場

15日金曜の夜、夜行快速「ムーンライト九州」で大阪を発ち、今朝今夏最終の「ムーンライト九州」で帰ってきました。行きのムーンライトが早々に2時間遅れの到着となり、九州では連日の大雨で列車の立ち往生や運休など、トラブルに見舞われ通しで予定の大幅の変更を余儀なくされましたが、この旅の一番の目的だけは天候にも恵まれ、想いを十二分に果たすことが出来ました。
大分県中津市の「風の丘葬斎場」の訪問です。

盛土と植栽により周辺からは視線を絶たれた中、湾曲したアプローチを胸躍らせ進みますと右手にマッシブな斎場のシリンダーの傾斜が現れ、そして行く手にあの端正なエントランスの車寄せが見えてきます。もうそこから先、言葉もありません。全てが素晴らしい。空間を進み、あるいは立ち停まって目を落とす一瞬一瞬の風景、光と影、素材、静謐な気配・・・。

一年半ほど前に伊東豊雄氏設計の岐阜県各務原市営斎場「瞑想の森」を訪れて感動しました。いずれも建築として優れて興味深いものですが、この「風の丘葬斎場」には美にもましてより聖性が、生と死に対する畏敬がこもっている様に感じられます。送るものと送られるものとが最後に共に過ごす場として、魂が離れ肉体が灰となって地に帰り煙となって天に昇る場として、これほど心に響く空間があろうかと思います。
そして、葬斎場を出て歩めば風の丘のゆったりとした空間。緩やかな起伏の緑の大地に突き刺さる斎場の傾斜した八角柱と待合棟のコルテン鋼の赤い壁、拡がる青い空。大地に描かれた円弧の径。ここにも静けさだけがありましたが、やさしくおおらかです。心が解き放たれるようです。

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槇文彦氏の設計では端正な美や素材の語りかける質感、緻密なディテールなどについつい目を奪われがちですが、この空間を体験してみて建築の中での床の起伏や天井の高低の妙というものこそが、そこに落ちる光と影と共に空間をかたちづくるものと、改めて思いました。
先の島根では不遜にも不平を述べましたが、この葬斎場は槇氏の、というよりも槇氏という枠をはずして現代の建築の中でも最も優れたもののひとつであると間違いなく思います。目にする全景からどの部分に至るまで、発見があり感動があり、時を忘れます。
完成して既に12年、今でも年間に1000人を超す人々がこの建築を目指して中津を訪れるそうです。

それにしても待合ロビーの中央にあるあの階段、あまりにも美しい階段です。カルロ・スカルパのオリベッティ・ショールームの階段やルイス・バラガンの自邸の階段などと共に階段だけを取り出しても世界の名階段のひとつと私は思いますが、長い間この階段を上っていった先の2階はいったいどのようになっているのであろうとずっと謎に感じていました。雑誌などにも2階は図面の掲載もなく、とても気に掛かっていたのです。今回の訪問では是非ともそれを知りたいと思って出掛けたのですが、なんと!階段を上がりきった先は踊り場ホール状の小さなスペースのみで、その横にはあってもなくても良いような小さなルーフテラス。つまりは何もないのでした。上部側面から光を入れ待合ラウンジの外部テラスと立体的に光をつなげる為、あるいは待合ロビーの天井に豊かさをつくり出すため、何といっても待合ロビーの核として階段を置くため、いずれにしましてもこれが設けられたその真意は分かりかねますが、ともかく謎が解明出来て私はスッキリ。
2階があろうとなかろうとこの空間にこの階段はなくてはならないものだとやはり思うのです。

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  1. 2008/08/19(火) 23:40:50
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コメント

さいごの時

木村さん、こんにちは。
朝晩も含め、かなり過ごしやすくなってきましたねえ。
「風の丘葬祭場」恥ずかしながら、このブログで初めて知った次第ですが、建物だけでなくまわりのランドスケープも含めて、非常に素晴らしいですね。周囲の景観と建物の素材・形状・光と陰とが見事にデザインされ、Webで写真を拝見するにつれ、こういうところで最期の時を共にすることが出来る中津市のみなさんが非常に羨ましく思います。中津市は図書館も槇文彦氏の設計だとか。建築も地域の文化として、人々の中に豊かに位置付いていることでしょうね。

五輪もいよいよ終盤。鳥の巣の設計では中国の独特の進め方で、ヘルツォーク&ド・ムーロンも随分戸惑ったようですが、中国のマンパワーと勢いがなければ成し得なかった事業でしょうね。当初の計画にあった可動式の屋根も予算削減でとりやめに。ただそれをも見事に開会式の演出に生かされていましたよね。
北京五輪の最后の時、鳥の巣はどういう表情を私たちに届けてくれるのかも楽しみです。

いずれにしても、優れた建築はそこに人の有り様が一体となっているものなのだなと改めて感じました。
  1. 2008/08/22(金) 18:01:28 |
  2. URL |
  3. Jun. #-
  4. [ 編集]

風の丘のランドスケープ

いつもありがとうございます。
本当に涼しくなりました。今朝の青空とひんやりした空気の気持ち良かった事と言ったら!気がつけばもう8月も残り僅か、いつの間にか夏も過ぎ行こうとしています。

それにしてもJun様も随分と建築通で、驚かされます。ご指摘の中津市図書館にもついでに足を延ばそうかと思っていたのですが(実際駅の近くでした)、時間の都合で今回は割愛しました。ともかく「風の丘葬斎場」の印象でもう満ち足りてもいましたので・・・。
ご記載の通り風の丘のランドスケープのデザインも素晴らしく、葬斎場と一体となって優れた景観を創っています。密接なものと感じて現地を訪れてみますと、現実には葬斎場はほとんど風の丘とは隔絶した世界を形成しています。唯一待合室は風の丘に対して開いた計画となっていますが、地盤をマウンド状に盛り上げて風の丘側とは隔てられています。一方、風の丘側からは葬斎場は建築としてではなく、幾何学的なエレメントとしてのみ現れています。風の丘は古墳も有し「墓地」としての性格を持つものですが、市民に開放されれいる公園でもありますのでこのことは葬斎場という性格を考えれば、いずれの側からも至極当然の解決ですが、なにより、葬斎場を後にして風の丘を巡る時に、葬斎場の空間を引きずらずスパッと、青空の下にいる大地の上にある、というのはとても心地の良いものでした。
そして引きずらずなお、やはり葬斎場と風の丘とが一体的に心の解き放たれる空間を形成していることが、この建築・ランドスケープの素晴らしさと感じます。

「鳥の巣」、中国の国家の威信と膨大な労働力と建築家の才能との賜物、いつの日か見に訪れたいともいます。9月末には映画「鳥の巣」も大阪で公開されるようですので楽しみです。

暑い夏の盛りを過ぎると涼しさを感じますが、涼しくなったと思えば今度は残暑を厳しく感じるもの、いずれにしましても季節の変わり目、どうぞJun様皆様もお気をつけてお過ごし下さい。
昨晩、夜の冷気が心地よく窓を開けたままつい眠りについた私は、風邪をひく危機に目覚めてあわてて窓を閉めました。
  1. 2008/08/22(金) 22:58:23 |
  2. URL |
  3. tetsuyakimura #-
  4. [ 編集]

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